ありがとうそしてごめんなさい
何もしない何も変えようとしない人間が生きている価値なんて無いと思っている。
何にも貢献出来ないような人間は生きていても仕方が無いと思っている。
だから二酸化炭素を吐くだけの生き物が嫌いだった。それで生きていて笑っている生き物が嫌いだった。
だけど、よく考えてみたらそれが妥当なのかもしれない。みんなそうやって生きていて、結局は二酸化炭素を吐いて酸素を吸うだけの人生なのかもしれない。
だから私が今年碌に何も行動を起こさなかったのは大したことじゃない。
日本の女性の平均年齢――つまり80年程度の寿命と考えても、私はまだ2009年と言うたった一年を無駄にしただけなんだ。大丈夫だ。80分の1だ。
たったそれだけの無駄なんだから何も変わらずにまた来年も訪れるんだと思う。だから私は何も悪くない。
ただ、この2009年と言う年にたまたま何もしなかっただけであって、私がただ二酸化炭素を吐いて酸素を吸うだけの生き物じゃないということには間違いない。
何度も目標を立てたけど何一つ適えられやしなかった。でもそれは殆どの人間がそうなのであって、特け私が駄目な訳じゃない。この理論で言うと他の人間も大して駄目な人間じゃないのかもしれない。
私は私を価値のある命だと思いたい。
でもそれを否定せざるを得ない根拠が有り余るほどある訳で、私はどうしようもなくこの大晦日を過ごさなければいけない。
どうせなら年越し蕎麦で喉を詰まらせて死んでみてもいいかと思った。だって私は駄目な人間だから。
除夜の鐘の音が聞こえる迄にこの呼吸運動を止めないと、いけない気がした。私の煩悩は108では収まらない。
鐘の音が足りないから金の値も足りないんだ。人一人の命なんて、紙一枚より安い場合もある。いいや、そんな場合ばかりだ。
実際生きていて千円札より価値のある人間なんて何人居る? ひとりふたり、指で数えるほどしかいない。
私はそんな指折りの人間になりたいのに、夢見るばかりで夢をほざくばかりで、結局指には入れない。ずっと娯楽に走って、哲学じゃないけど生きている意味を理解出来なくなっていた。
だって娯楽に走るだけの人生に何の価値があるの。何も残らないでしょう。
私には大きくて素敵な夢があったはずなのに。「結論を先延ばしに出来るのは子供の特権だなぁ」何かの四コマ漫画で登場人物の少年が言っていたこの台詞に、私は軽い恐怖すら覚えた。
もう子供じゃない。
結論を先延ばしには出来ないのだ。私は「また今度やろう」と言う台詞に頼っていただけだ。
そうやって大きな夢を持っているはずなのに、バイトで疲れて眠いから寝ようとベッドに潜り込むの。応援歌なら沢山ある筈なのに耳を塞ぐ。
夢を持っている筈なのに夢から逃げようとするんだ。
頑張った人が報われないのは知っている。報われる場合があるのも知っている。自分がどっちに行くかは――頑張った人にしか解らない。
私は結局何がしたいのかなぁなんて考えてみて、でもどうせ何時も通りに年越して同じような日々がずっと続くんだろうなぁと思った。
来年になるから何なんだ。年なんて人間が勝手に作った単位じゃないか。
眠いからもう寝よう。もういいんだ。
明日もバイトなの。疲れるから。眠くなるから。もう寝よう。
ごめんね2009年。私は今年も結局、二酸化炭素を吐いていただけだよ。
そして酸素を吸っていただけだよ。
大晦日だ。私は今日中に、首を吊って死にたくなった。
私は不意に目を開いた。それがいけなかった。
ずっと目を閉じていればよかった。そうすれば何も見なくてよかったし何も知らなくてよかったんだと思った。だけど、目を開かないとナイフとフォークを使って食べる事が出来ない。
間違えて手首を切ってしまってはいけないから。
だから目を開けたの。だけど私はひどく後悔した。目を開けなければよかった。
料理なんて、何処にも無かったんだから。
死んで花実が咲くものか?
――この子死んだっぽい……。
俺が見下ろすケージの中で、姉が飼っていたペットが伸びていた。
ああ、死んでるなと、一目で解った。普段から余り動かない奴だったのだが、ぱっと見てどう見ても生気を感じられなかったのだ。
俺は勿論姉を否定した。ただ、姉の悲哀を認めなかった訳ではない。
ただ――まだ何かしてあげられることはあったのではないか。そう強く思うのだ。
人は身勝手だとよく思う。普段はほったらかしでも、死んだ時だけは哀しそうな・・・いや、本当に哀しむのだ。
命の価値はやっぱりこの程度かと俺は内心嘲笑した。
このやりきれない思いは文章にするには難しすぎる。人は死なねば気付かない、愚かな生き物なのだ。
命の価値が知りたいのなら、ペットを飼うと良い。とびきり愛敬のある、愛着の湧いた可愛いペットを。そして自分の都合に合わせて飼育を放棄すると良い。
いずれペットは死ぬ。その時に解るのだ。
俺は泣きだした姉を見て馬鹿だなと思った。全部――少なくとも半割はお前の所為じゃないか。偽善者ぶって泣く必要は無い。寧ろ止めてくれ、笑いが抑えきれないぜ。
「せいぜい、化けて出るなよ」
そう、心の中で悪態を着いた。
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